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地震の備えは大丈夫?住宅の耐震補強を一級建築士がわかりやすく解説

2023年11月16日

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住宅の耐震補強

「最近、地震が多いので、家がつぶれないか心配」
「耐震補強を考えているけど、やり方がわからない」

といったお悩みの方も多いのではないでしょうか?

生活の基盤となる住宅の耐震化は本当に重要です!

本記事では、住宅の耐震補強の基本をわかりやすく解説していきます

この記事を書いている人

  • 大学卒業後、都市計画コンサルタントに就職し、微力ながら阪神淡路大震災の復興事業をお手伝いさせていただきました
  • その後、県庁へ転職し、公務員として住宅・建築物の耐震化の業務に従事
  • 現在は、公務員を早期退職し、フリーランスとして活動しています

この記事を読むとわかること

  • 耐震補強が必要な住宅
  • 耐震補強の流れ
  • 耐震補強に必要な費用と補助金
  • 耐震補強するうえで押さえておきたいポイント

耐震補強が必要な住宅とは

建築基準法を守って建てられた住宅は、十分な強度があるので耐震補強はいりません。

しかし、昔の建築基準法は構造の基準が緩かったため、現在求められる耐震基準に達していない住宅があり、そのような住宅は耐震補強が必要になります。

昭和56年以前に建築された住宅

耐震補強が必要になる可能性のある住宅は、昭和56年以前に建築された住宅です。

建築基準法が昭和56年に改正され構造基準が強化されましたが、昭和56年以前の住宅は強化される前の基準(旧耐震基準)で建築されているからです。

国土交通省の「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書によると、平成28年に発生した熊本地震では、旧耐震基準の木造建築物の倒壊率が28.2%であったのに対して、新耐震基準の木造建築物の倒壊率は8.7%と大きな差があります。

旧耐震基準で建築された住宅は、まずは耐震診断をして耐震性があるか確認することが大切です。

昭和56年から平成12年に建築された住宅

熊本地震では、新耐震基準(昭和56年以降)の木造住宅でも被害が見られました。

これは、平成12年に構造基準がさらに強化されていましたが、その仕様になっていない建物に被害があったものです。

このため、昭和56年から平成12年に建築された住宅でも、耐震診断をして耐震性があるか確認しておくことをおすすめします。

耐震診断で耐震性がないと判断された住宅

耐震診断の結果、「耐震性がある」と判定された住宅は耐震補強の必要はありませんが、耐震性がない場合は、耐震補強を検討することをおすすめします。

耐震性が非常に低く大がかりな補強が必要になるような場合は、建替も視野に検討を進めていくほうがいいでしょう。

まずは、耐震診断でどの程度の耐震性があるかを確認することから始めましょう。

住宅の耐震補強の流れ

補強設計の流れ

耐震補強をするために、最初にやることは耐震診断です。

耐震診断の結果、「耐震性がない」と判定された場合は、耐震設計をして耐震補強工事に移っていきます。

耐震診断:耐震性があるかを確認する

耐震診断では、建築士などの専門家が現地に来て、屋内、屋外、床下や小屋裏などを調査します。

間取りや壁の位置、筋交い(すじかい)の状況、壁や基礎のひび割れなどを確認するので、所要時間は2~3時間見ておけば大丈夫でしょう。

この現地調査と耐震診断基準に基づいて、後日、診断結果が出されます。

診断結果は評点によって、4段階で評価されます。

評点評価
1.5以上倒壊しない
1.0以上1.5未満一応倒壊しない
0.7以上1.0未満倒壊する可能性がある
0.7未満倒壊する可能性が高い

揺れに耐えられるような筋交い(すじかい)や耐力壁がバランスよく配置されていて、建物の重量が軽い場合は構造上有利になります。

耐震設計:補強方法を具体に設計する  

耐震診断で、耐震性がないと判定された場合に、耐震補強の方法を検討することになります。

どのような補強工事をするかによって、住宅の使い勝手や工事費が大きく変わるので、設計者と十分に話し合うことが大切です。

耐震補強工事:補強工事を行う

耐震補強の方法には以下のものがあります。

これらをすべてやる必要はなく、耐震診断結果と照らし合わせて、必要な補強方法を選びます。

具体的な内容は設計者と十分に話し合いましょう。

基礎

  • 基礎のひび割れを補修したり、腐朽している材料を新しいものに交換して強度を上げます
  • 柱の引き抜きを防止するために柱と基礎を緊結します

  • 構造用合板や筋交い(すじかい)を取り付けた耐力壁をバランスよく配置して、耐震性を高めます
筋交い
筋交いを入れた耐力壁

屋根

  • 建物の重量が軽いほど地震に強くなるので、瓦などの重い屋根を軽い素材に替えることで耐震性を高めます
  • 費用は耐力壁の設置のほうが安く済む場合があるので、雨漏りや屋根の損傷など劣化が見られるタイミングでやるほうがお得です

耐震金物の設置

  • 基礎と土台、柱と梁など部材が交わる箇所に耐震金物を設置して強度を高めます
耐震金物
柱と筋交いを緊結した耐震金物

耐震補強にかかる費用

耐震診断からスタートして、耐震補強工事までやるには、安くないお金がかかります。

安全安心には代えられないので、節約できるところは節約して、かしこく耐震補強をしていきましょう。

耐震診断

建築当時の設計図面の有無や築年数などによって異なりますが、概ね10万円~20万円程度と言われています。

また、耐震診断や補強工事をする際には市町村などから補助金を受けられる場合がありますので、お住いの市町村にぜひ問い合わせてみましょう。

リフォーム会社に聞くのも良いですが、リフォーム会社が補助金のことを知らないケースもあるので、直接、市町村に聞くことをおすすめします。

耐震設計

耐震設計に必要な金額は、建物の規模や詳細な調査の必要性などによって変わるので一概に言えませんが、東京都のホームページによれば、概ね30万円程度とあります。

(東京都耐震ポータルサイト:https://www.taishin.metro.tokyo.lg.jp/proceed/topic01_02.html

耐震補強工事

耐震補強工事の費用も、もともとあった耐震性の程度や住宅の広さなどによって大きく変わるので一概には言えません。

しかし、一般財団法人日本建築防災協会によれば、木造住宅の場合、100~150万円で行われることが最も多いというデータがあります。

補強工事費

出典:日本建築防災協会

補強工事費

出典:日本建築防災協会

また、大阪府のホームページでも、150~200万円で補強工事した人が最も多いというデータがありますので、150万円前後が相場と言えそうです。

補強工事費

出典:大阪府HP 木造住宅の耐震化について

耐震補強で使える補助金

自治体によって、耐震診断、設計、補強工事の補助制度をもっているところがあります。

耐震補強を検討している場合は、お住いの市町村に聞いてみて、市町村に補助がない場合は都道府県に問い合わせてみましょう

都道府県の窓口はこちらです (国土交通省HP 地方公共団体の支援制度に関する問い合わせ窓口

リフォーム会社を探すときの注意点

耐震補強の成功か失敗かは会社によって決まると言っても過言ではありません。

リフォーム会社を探すときに、押さえておきたい注意点は以下のとおりです

  • 耐震補強工事の実績があるか
  • こちらの希望を理解してくれるか
  • 担当者との相性
  • 都道府県の登録制度や団体に加盟していると安心
  • 面倒でも最低3社と会って見積りを比較する

一つずつ解説します。

耐震補強工事の実績があるか

リフォーム会社には得意分野や特徴があります。

リフォームはやっているけど、お風呂やトイレのやり替えがメインで、耐震補強は得意ではないといった会社もあります。

耐震補強するなら、その工事実績の多い会社のほうが安心です。

こちらの希望を理解してくれるか

こちらの希望を叶えることが物理的に無理な場合もありますが、希望を無視して会社側の意見ばかり提案してくる会社もあります。

例えば、耐力壁を新たに設置する場合、壁のなかったところに壁ができるわけですから、通れなくなったり光が入って来なくなったりします。「ここに壁があると邪魔だけど」と思ったら、その思いをリフォーム会社に伝えましょう。

良い会社なら、こちらの希望に近づけられるように提案してくれますし、どうしても無理な場合は丁寧に説明してくれます。

担当者との相性

担当者の態度や言葉づかいに、「あれ?大丈夫?」と思うことがあれば、後々トラブルになる可能性もあります。

現地調査や見積りをもらうときに、担当者と会って話をするので、会った直感でわかる場合が多いでしょう。

工事費の高い安いもありますが、担当者との相性も会社選びの重要な要素になります。

都道府県の登録制度や団体に加盟していると安心

安心してリフォームできるように、都道府県によってはリフォーム会社に関する情報を公表しているところもあります。

大阪府では「大阪府住宅リフォームマイスター制度」、兵庫県では「住宅改修業者登録制度」があり、リフォーム会社の概要がわかるようになっています。

もちろん、このような登録をしていなくても優秀で安心できる会社もありますので、どこに頼めばいいかわからない方は参考にされてはいかがでしょうか。

面倒でも最低3社と会って見積りを比較する

耐震に限らずリフォームする際には、面倒ですが最低3つのリフォーム会社と会うことが大切です。

1社だけでは工事内容や見積りが正しいのか判断しにくいからです。

見積りの高い安いもありますが、担当者との相性や会社の雰囲気などは会ってみないとわかりません。

あとになって、「別のリフォーム会社のほうが良かったかな」と後悔しないためにも、面倒ですが3社と会って見積りを比較し、「この会社なら信頼できる」という会社に依頼することが大切です。

耐震補強するときに押さえておきたいポイント

耐震補強する際に押さえておきたいポイントは以下の内容です。

特に補助金を使おうと思っても、補助を受けられなくなるケースもあるので、注意しましょう。

  • 契約書の内容を確認する
  • 補助金を使うときの注意点
  • 耐震補強のチャンスはこんなとき

契約書の内容を確認する

まず、仕様書、図面、見積書の内容は必ず確認しましょう。

仕様書とは「工事の総括的なことが書かれている書類」

図面は、補強箇所や補強方法などが具体に示されているもの

見積書は、工事費用が記載されています。
「一式○○万円」という見積書は絶対ダメ。今どき、こんな見積書を出している業者は信用できないので、注意してください。

わからないことがあれば、遠慮なくリフォーム会社へ確認しましょう。

補助金を使うときの注意点

補助金を受ける場合に注意したいのが、以下の2点です

1 市町村などの予算があるか

  • 市町村の予算がなくなれば、補助金をもらえないので、早めに市町村へ相談しておきましょう。
  • 予算がなくなれば、次年度まで待たないといけないので、工事時期に影響します。

2 補助金のルールを守る

補助金を受けるには、補助金のルールを守らなければいけません。

  • 一番気をつけないといけないのは「事前着工」というものです。
  • 市町村が補助すると決めていない段階から工事(契約)すると、「事前着工」となり補助を受けられなくなってしまいます
  • 市町村の手続きの中で「交付決定書」という書類をもらうので、交付決定の日付以降に契約すれば大丈夫です。補強工事だけでなく、耐震診断、耐震設計すべて同じです。

耐震補強のチャンスはこんなとき

耐震補強のためだけに家の中を工事するのは、なかなか効率が良いとは言えません。

耐震補強するタイミングとしては以下のときが理想です。

1 リフォームや増改築するとき

工事するのに家具を移動したり掃除したりする手間もかかるので、「リフォームのついでに耐震補強もする」というのが理想です。

壁紙の張替え、お風呂やトイレのやり替え、キッチンを新しくするなどリフォームの予定があれば、ぜひ耐震補強も考えてください。

2 屋根を修繕するとき

雨漏りなどで屋根を修繕するときに、重い屋根から軽い屋根へ変えることは耐震対策に有効です。

建物の重量が重ければ重いほど、耐震性は不利になるので、屋根を軽くするのは大きな耐震対策です。

まとめ

耐震補強工事の効果は、地震が起きたときにはじめて実感できることなので、なかなか実行に移しづらいのが正直なところかもしれません。

ただ、現時点で耐震性に不安を感じているようでしたら、耐震診断だけでもやってみることをおすすめします。

特に、1981年(昭和56年)以前に建築された住宅は、現状の耐震性能を知ることが大事です。

まずは耐震診断から始めてみましょう。

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