連日世間を騒がせている、兵庫県斎藤知事。
疑惑の真相はわかりませんが、僕の26年の公務員の経験をもとに、今、兵庫県庁で起こっている実務的な問題を考えてみたいと思います。
公務員を目指している人には、ぜひ知っておいてもらいたい内容となっているので、最後までご覧ください。
なお、一部推測の入っているところがありますので、ご容赦ください。
この記事を書いている人
- 26年間、地方公務員(某県庁)として勤務し、51歳で早期退職
- 建築職なのに、財政課に配属され予算査定も経験
- 退職後1年間はフリーランスとして活動し、今は民間企業へ転職
兵庫県庁で起きている問題
僕の26年間の公務員の経験から、今、兵庫県庁で起きていることを推察します。
苦情対応は本当にたいへん
知事の問題に関して、たくさんの苦情が県庁に届いていると報道されています。
知事に関する苦情は、普通は秘書課で受けます。
秘書課というのは、知事の秘書事務を担当していて、知事との距離が一番近い部署です。
しかし、今回の場合、県民と接する部署では、必ずと言っていいほど苦情を受けているはずです。
福祉や教育、産業、建築といった部署ですね。
電話での苦情は長ければ1時間を超えるケースもあるでしょう。その間、通常業務は止まります。
対応した職員としても、「僕に言われても・・・」という思いを封印し、「申し訳ありません」「事業が停滞しないよう努めます」と言い返すしかありません。
一部報道によると、苦情対応のために応援体制を組んでいるようですね。
職員からすると「いい迷惑!いい加減にしろ!」と叫びたい状況でしょう。
職員が応援に行けば、その分、通常業務が停滞します。
それでも業務を進めないといけないので、
残っている人でカバーする。
みんなの業務量が増える。
残業や休日出勤が増える。
悪循環・・・。
「なぜこんなことしているの?」とフラストレーションがたまっている職員も多いのではないでしょうか。
情報公開請求が殺到
まず、情報公開請求とは以下のものです。
- 情報公開請求とは、県が保有する公文書を請求に応じて公開するもの
- 誰でも請求でき、請求してから原則15日以内に、公開か非公開が決定されます
- 公開と決定された場合は、個人情報などの部分は黒塗りされ、それ以外の情報を見ることができます
普段でも、情報公開請求されることはあります。
僕は、工事や設計委託の積算内訳書の公開請求を受けたことがあります。
これは、設計事務所や建設会社が情報収集のために定期的に請求していたものです。
今回は、知事に関する情報公開請求が全部局に対してなされていると思われます。
例えば、「知事就任後から、知事レクや知事視察に関する資料・議事録一式など」についての公開請求です。
情報公開請求がなされると、以下の業務が発生します。
- 公開対象の資料か否かのチェック
- 資料の内容確認
- 複数年にわたる場合は膨大な量となる
- 個人情報が含まれている場合は、該当箇所の黒塗り
しかも、原則15日以内に処理しなければならず、通常業務を後回しにしてでも対応しなければいけません。
通常業務は停滞させられない
苦情対応や情報公開請求、他部署への応援などがあっても、通常業務は停滞してはいけません。
理由は、知事が「県政を進める」と発信しているからです。
おそらく、総務部あたりから各部局に対して通知を出しているのではないでしょうか。
苦情対応の応援で職員が減っている。
それでも、「通常業務は進めろ」と言われる。
業務量が増え、残業が増える。
ストレスが増え、モチベーションが下がる。
県庁職員のご苦労、お察しします!
来年度(R7年度)の予算議論(予算要求)がどうなるのか
これからの時期に問題となるのが、来年度(R7年度)の予算議論(予算要求)でしょう。
というのも、来年度に県政を引っ張る知事が確定していなければ、来年度予算の話はできないからです。
予算議論(予算要求)とは
通常、都道府県では11月ごろに予算要求資料を財政課へ提出し、予算議論が始まります。
部局の要求に対して、財政課の担当者が査定し、財政課長、財務部長、副知事、知事と査定ステージが上がります。
都道府県によりますが、財政課長でOKとなるものもあれば、重要施策などは知事まで上がってOKとなります。
ちなみに、兵庫県のホームページを見る限り、予算査定はあまりオープンになってないようですね(僕が探し切れていないだけかもしれませんが)
知事が変わる可能性があれば、予算議論が複雑・面倒になる
知事が変わる可能性があれば、来年度の本格的な予算が組めなくなります。
その場合、骨格予算と言って最低限必要となる歳出と歳入だけを予算措置して、その他の予算は新しい知事が決まってから予算議論をします。
どのタイミングで知事が決まるかによりますが、二度手間になったり、予算議論の時間が短くなり、その分、ハードな業務になったりと、職員の負担は例年以上に増えることでしょう。
職員の思い(勝手に代弁)
今回の事態に対して、職員の方は
「いい加減にしてくれ!」と思っている方が大半ではないでしょうか。
県民を第一に考えるのは当然として、職員のことも考えてくれ!という思いが強いでしょう。
このゴタゴタも公務員の仕事のうち
きつい言い方になるかもしれませんが、知事のせいで仕事が進まなかったり、苦情を言われたりするのも公務員の仕事の一つです。
しかし、公務員に限らず民間でも同じ話ですね。
公務員を目指している人は、このことも肝に銘じたうえで頑張っていただければと思います。
元公務員が思うこと
このゴタゴタの中、一番心配なのは、若手や中堅職員のことです。
というのも、
- 苦情対応で最前線に出るのは、若手や中堅職員(幹部や課長などの管理職は、直接苦情対応しません)
- 他部局へ応援に行くのは、若手や中堅職員
- 応援で人員が減った分をカバーするのは、若手や中堅職員
であるからです。
何が言いたいかと言うと、今回の件で疲弊しているのは若手や中堅職員である、ということです。
若手や中堅職員の中には、モチベーションが下がり、「公務員の仕事って何なんだ!」と退職を視野に入れ始めた人がいるかもしれません。
僕自身、2度転職しているので、「公務員を辞めたらもったいない」と思ったことは一度もないですし、「辞めたければ辞めればいい」と考えています。
兵庫県庁が優秀な若手・中堅職員を失いたくないなら、彼ら彼女らのケアを忘れないでください。
でも、優秀な職員ほど辞めていく現実・・・。これは僕の経験です。
まとめ
兵庫県の斎藤知事の問題で、県庁職員は疲弊しています。
特に、事務の負担が増えているであろう若手や中堅職員が疲れ切っていると推察します。
この問題の解決策について、職員は言いたいことがあると思いますが、ただただ静かにトップの判断を待つしかありません。
これが公務員の現実であり、公務員の仕事なのです。
僕が退職してから1年半ほど経ちますが、この報道を目にするたび、何とも言えない気分になります。