最近、日本全国で大きな地震が発生しているので、住宅の耐震のことを気にされている方も多いと思います。
マンションは一見、頑丈そうに見えるので地震に強いと思いがちですが、本当に大丈夫なのでしょうか。
「マンションを買う予定だが、耐震性はどこまで気にしたらいいの?」
「地震に強い階はあるの?」
「中古マンションはどれくらいの地震に耐えられるの?」
「今住んでいるマンションは耐震性があるの?」
と不安に思われている方に向けて、そもそもの耐震基準のことや地震に強いマンションのポイントなどをご紹介します。
ぜひ参考にしてみてください。
この記事を書いている人
- 公務員を51歳で早期退職した一級建築士
- 大阪北部地震で被災建築物応急危険度判定を経験
- 現在はフリーランスとして活動中
この記事を読むとわかること
- 建物の耐震のこと
- 地震に強いマンションを選ぶポイント
- 地震に強いコスパの良いマンション
まず、建物の耐震のことを知ろう
まず、建物の耐震を考える際に知っておきたいことをご紹介します。
- 新耐震基準と旧耐震基準
- 建物自体の構造
- 耐震工法
概要だけでもサクッと見てみてください
大前提となる「新耐震基準」と「旧耐震基準」
耐震基準には大きく分けて「旧耐震基準」と「新耐震基準」があり、マンションの場合は「新耐震基準」を満たしていれば耐震性があります。
ちなみに、木造住宅の場合は新耐震基準だけでは不十分で「2000年基準」を満たしていることが理想です。
新耐震基準とは
1981年6月以降に建築確認申請が提出された建物に適用される基準で、中規模の地震(震度5強程度)に対してはほとんど損傷がなく、大規模の地震(震度6強~7程度)に対して倒壊・崩壊しないことが求められます。
注意する点は、単に1981年6月以降に建物が完成したということではなく、1981年6月以降に建築確認申請が提出されている点です。
というのも、1981年6月以前に建築確認申請を旧耐震基準で提出し、1981年6月以降に完成した建物もあるからです。この場合は、現行の耐震基準を満たしていない可能性があります。
旧耐震基準とは
1981年5月まで使われていた基準で、震度5程度の地震で即座に建物が損傷しないことが求められています。
大規模地震のことが考慮されていないので、当たり前ですが地震に弱い基準です。
仮に築30年のマンションでも新耐震基準で建てられているので、よっぽど古くなければ(築50年とかでなければ)耐震性があると考えていいでしょう。
建物自体の構造
建物の躯体(骨組み)をつくる材料の違いによって、主に以下の種類にわかれます。
- 木造
- 鉄骨造(S造)
- 鉄筋コンクリート造(RC造)
- 鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)
マンションで良く採用される構造が鉄筋コンクリート造です。
昔は高層マンションでは鉄骨鉄筋コンクリート造が採用されるケースが多かったのですが、最近ではタワーマンションでも強度の高いコンクリートを使って鉄筋コンクリート造でつくられることが多くなっています。
マンションで木造や鉄骨造はほとんど見られません。
鉄骨造は揺れる(しなる)ことを前提にしているので、もし鉄骨造のマンションがあれば、地震のときにかなり揺れると思っておくほうが良いでしょう。
地震に強くするための工法には3種類ある
地震に強い建物にするための工法には「耐震工法」「制震工法」「免震工法」の3つがあります。
マンションの購入を検討している人は、知っておいて損はないでしょう。
耐震工法
建物を強くすることで、地震の揺れに耐えられるようにすることです。
ブレース(筋交い)や耐震壁を設置して耐震性を高めます。
制震工法
建物内にダンパーと呼ばれる制振装置を設けて地震の揺れを吸収し、地震の揺れを小さくする工法です。
高い建物は上階ほど揺れが大きくなりますが、制震にすることで揺れの幅をおさえることができます。
免震工法
建物と地面を切り離し特殊な免震装置を設けて、地震の揺れが建物へ直接伝わりにくくする工法です。
大きな地震が発生しても建物は揺れにくく、落下物などの二次被害が起こりにくい特徴があります。
工法のメリット、デメリットをまとめると下表のようになります。
種類 | メリット | デメリット |
---|---|---|
耐震工法 | ・他の工法と比べてコストが安い | ・地面の揺れが直接建物に伝わる ・繰り返しの地震によって建物にダメージが蓄積される可能性がある |
制震工法 | ・制震装置によって揺れが軽減される | ・耐震比べるとコストが高い ・地盤が弱い場合、導入することが難しい |
免振工法 | ・横方向の地震の揺れを大きく軽減でき、建物内部の損傷を防ぎやすい | ・最もコストが高い ・新しい技術のため、事例が少なく将来の維持機能が心配 |
地震に強いマンションを選ぶポイント4選
地震に強いマンションを選ぶ際に気をつけたいポイントは以下の4つです。
- 新耐震基準を満たしている
- 建物の形状がシンプルである
- 地盤が安定している
- 定期的なメンテナンスがなされている
それぞれ詳しく見ていきましょう。
新耐震基準を満たしている
マンションが鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造の場合、新耐震基準に基づいて建てられていれば耐震性はあります。
新耐震基準かどうかを確認する方法は以下の2つです。
建築確認申請の日を確認する
マンションを建築する前には、建築基準法に基づいて建築確認申請がなされています。
この建築確認の日が1981年6月以降であれば新耐震基準となります。
中古マンションの場合は、管理会社や不動産会社に聞けば教えてくれるでしょう。
耐震診断の結果や耐震改修の実施を確認する
旧耐震基準で建てられたマンションでも、
- 耐震診断の結果、耐震性のあることが判明した場合
- 耐震改修した場合
は、新耐震基準に相当するので、耐震性があります。
1981年6月より前に建ったマンションの場合は、管理会社や不動産会社に聞いてみましょう。
なお、耐震診断や耐震改修した場合は、第三者機関による耐震評定(第三者から見てきちんと耐震診断や改修をしたというお墨付き)があると安心です。
なぜなら、構造設計を担当した設計事務所だけの判断だけではなく第三者である評定機関の判断が入っていると信頼性が上がるからです。
建物の形状がシンプルである
マンションの建物形状には
- 長方形
- L型配置
- 雁行配置
- 微妙なズレ
など、さまざまなパターンがあります。
この中で最も地震に有利なのが長方形のマンションです。
地震で揺れた時に建物全体が一体となって同じ揺れ方をするためです。
その他の形状のマンションは隣接する住棟ごとに異なる揺れ方をするので、接続部分に力が加わり弱点となる可能性があります。
しかし、接続部分にエキスパンションジョイントが設置されていると安心です。
エキスパンションジョイントとは、簡単に言うと、住棟と住棟の間に空間を設けて建物どうしがぶつからないようにしているものです。
住棟の住棟の隙間は、利用するのに支障がないよう金属製のカバーがはめられていて、一見すると隙間があることはわからないようになっています。
たいていのマンションでは必要な箇所にエキスパンションジョイントが設置されているはずですが、古いマンションでは設置されていないケースもあるので注意が必要です。
地盤が安定している
地震に強いマンションかどうかを見極めるには地盤を確認することも忘れてはいけません。弱い地盤に建てられたマンションでは、倒壊や地盤沈下、液状化現象などの危険性があるからです。
一般的に、マンションを建築する際にはボーリング調査をしているので、地盤のことを知りたい場合は、管理会社や不動産会社に問い合わせてみるといいかもしれません。
定期的なメンテナンスがなされている
中古マンションを購入する際は、メンテナンスが十分になされているか確認することも大切です。
屋上防水や外壁などの改修工事がきちんとなされていない場合、雨漏りや躯体のコンクリートに水が染み込んで、コンクリートの中性化が進んでいる可能性があります。
コンクリートの中性化が進むと、内部の鉄筋が錆びて膨張し周辺のコンクリートを押し出す爆裂現象が起こります。
爆裂するとコンクリートの表面が剥がれて崩落するだけでなく、建物の耐震性が著しく低下するので、マンションでは定期的なメンテナンスが欠かせません。
地震に強い階
マンションの中で「地震に強い階」というのはあるのでしょうか。
結論から言うと、「地震に強い階」というものはありません。
なぜかと言うと、耐震性能は1棟の建物全体で考えるからです。
構造計算上、建物の重さが重いほど耐震上不利になるので、上階と比べて1階のほうが不利になります。
しかし、不利な1階が耐震性能を満たすように設計するため、結局はどの階でも耐震性能は確保されています。
地震に強いコスパの良いマンション
マンションの価格は立地や間取り、設備などによって変わるので一概に言えませんが、耐震面にスポットを当てると、次のようなマンションがコスパが良いと考えられます。
- 新耐震基準を満たしている
- 構造は鉄筋コンクリート造
- 制震や免震工法じゃなくてもいい
- 揺れや地震後のことを考えると低層階や中層階
1つずつ解説します
新耐震基準を満たしている
地震に強いマンションは、新耐震基準を満たしていることが大前提です。
新築マンションの場合は大丈夫ですが、中古マンションの場合は建築年や耐震改修を実施したかを確認しましょう。
構造は鉄筋コンクリート造
鉄骨鉄筋コンクリート造は鉄骨が使われている分、割高になります。
ほとんどのマンションが鉄筋コンクリート造でつくられているので、コスパを考えてもあえて鉄骨鉄筋コンクリート造のマンションを選ぶ必要はないでしょう。
また、コンクリートは強度が高いほど値段が上がるので、高強度のコンクリートが使われているタワーマンションなどは若干割高になると言えるでしょう。
めったに聞きませんが、鉄骨造のマンションも避けるほうが良いでしょう。
耐震性があっても、揺れやすく振動が伝わりやすいことも多いので、日常生活で支障が出てくる可能性があります。
制震工法や免震工法じゃなくてもいい
3つある耐震工法のうち、制震工法や免震工法を採用していなくても、新耐震基準を満たしていれば耐震性はあります。
制震工法や免震工法では、ダンパーや積層ゴムなどの装置が必要になるためコストがかかりますし、将来的なメンテナンスも必要になります。
制震や免震と比べて揺れ幅は大きくなるかもしれませんが、コスパを考えると耐震工法のマンションで十分と言えるでしょう。
タワーマンションの場合は、制震や免振が採用されており市場性等もあるので、価格は大きく跳ね上がりますね。
揺れや地震後のことを考えると低層階や中層階
高層階のほうが揺れが大きくなりますし、エレベーターが停止したときには階段で昇降しないといけないので、低層階のほうが安心です。
また、マンションは一般的に高層階や専用庭のある1階の値段が高くなる傾向にあるので、コスパを考えると低層や中層階のほうが良いと考えられます。
まとめ
地震に強いマンションを選ぶポイント4選は
- 新耐震基準を満たしている
- 建物の形状がシンプル
- 地盤が安定している
- 定期的なメンテナンスがなされている
であることをご紹介しました。
また、コスパの良いマンション選びは以下の4点を意識してみてください。
- 新耐震基準を満たしている
- 構造は鉄筋コンクリート造
- 制震や免震工法じゃなくてもいい
- 揺れや地震後のことを考えると低層階
マンションを選ぶときには間取りや設備、階数、立地などを優先して検討しがちだと思います。
しかし、大きな地震が頻発している今の状況を踏まえて、普段はあまり気にしない「耐震性」も重視してコスパの良いマンションを探してみてはいかがでしょうか。
余談です:耐震診断が義務化されているマンションがあります
驚かれるかもしれませんが、旧耐震基準で建てられたマンションの中には耐震診断が義務になっているマンションがあります。
もし義務になっている場合は、所有者(管理組合など)などが耐震診断をして市町村等(正確には所管行政庁と言います)へ報告しなければなりません。
報告した診断結果は、市町村等(所管行政庁)によって公表されることになります。
耐震診断が義務になっているマンションとは、
「地震が起きた時に避難路となる重要な道路が、沿道の倒れた建物でふさがれないように」との主旨で、以下にあてはまる建物です。
- 指定された道路沿道にある建物
- 旧耐震基準の建物
- 道路幅の半分以上の高さがある(建物の用途や広さは問わない)
道路の指定は都道府県や市町村が行いますので、全国一律ではなく、都道府県や市町村によって異なります。
ちなみに耐震改修までは義務化されていませんので、念のため補足いたします。
中古マンション(旧耐震基準の建物)を探している方は念のため、不動産会社へ確認することをおすすめします。