公務員の仕事の中で、切っても切れないのが不当要求と言われる過度なクレーム対応です。
単に苦情を言ってくる人とは違い、自分の要求を通すために、人格を否定するような罵詈雑言を浴びせたり、業務を妨害するほどの長時間の電話をかけてきたりする人が一定数います。
役所内には、クレーム対応マニュアルがあって「マニュアルに沿って対応しましょう」と言われているものの、現実にはうまくいかないことのほうが多い気がします。
公務員時代を振り返って、
「このように対応したほうが良かった」
「組織として、こう対応してほしかった」
という点を踏まえて、現実的な対応策をご紹介します。
不当要求・クレーマーに悩んでいる方はぜひ参考にしてみてください。
この記事を書いている人
- 26年間、地方公務員として県庁に勤務し51歳で早期退職
- 公営住宅や耐震関連などの部署を経験
- 公営住宅の入居者から執拗なクレームを受け、組織対応の必要性を痛感
公務員に対するクレーマーの特徴
不当要求の中身はいろいろありますが、公務員に対するクレーマーにはある特徴があります。
- 税金で給料をもらっている公務員には何を言っても良い
- 「対応を長引かせたら、要求がとおる」と勘違い
税金で給料を貰っている公務員には何を言っても良い
税金で仕事している公務員に対しては何を言っても良いとクレーマーは考えているので、自分の要望を通すために平気で誹謗中傷してきます。
特に年齢の若い人や女性職員に対してはその傾向が強い印象です。
このようなクレーマーとは会話が成り立たないことが多く、解決の糸口が見えないこともしばしばです。
これに耐えなければいけない公務員は本当にたいへんです。
「対応を長引かせたら、要求がとおる」と勘違い
役所へ不当要求やクレームを入れてくる人は、時間に余裕のある人が多く昼間に2時間くらいは普通に電話してきます。
担当者からすると、1回の対応で2時間程度取られるので、その間の本来業務は止まったまま。
対応が1回で終わるわけがなく、酷いときには2週間から1ヶ月程度毎日、嫌がらせのように電話があったりします。
経過や相手の主張などを記録に残さないといけないので、それにも時間が取られ残業を余儀なくされることも。
クレーマーは、対応を長引かせたら役所が折れて要求がとおると勘違いしているので、担当者からするとどうしようもなく、徐々にメンタルが疲弊していきます。
クレーム対応マニュアルはあるけど・・・
役所ではクレーム対応マニュアルが作られていますが、なぜかうまく機能していない印象があります。
例えば、以下のようなところです。
- 複数で応対
- 所属長(権限のある人)に応対させない
複数で応対
たいていのクレーム対応マニュアルには「複数で応対しましょう」とあります。
これはクレーム対応の基本で、窓口の場合は複数で応対できますが、電話の場合はひとりで応対しなければいけません。
実際にクレーマーと対峙している担当者にとって、ひとりで電話対応している時が一番ツライですね。
罵詈雑言を独りで受けないといけませんから。
電話も担当者ひとりに任せるのではなく、複数で交代して応対できるような対応が必要です。
所属長(権限のある人)に応対させない
「権限のある所属長には応対させない」とクレーム対応マニュアルによくありますが、これは半分正解で、半分間違いと感じています。
担当者が頑張って対応してくれていても、相手の要求が「上を出せ」となれば、上が出ないと話は収まりません。
「所属長は出さない」としても、しかるべき上の人が出てガツンと言ってくれたら担当者としても救われますし、「自分だけじゃなくみんなで対応している」と思えて頑張ることができます。
クレーム対応する人(担当者・上の人・所属長)
実際にクレームが入ってきたときに最初に応対するのは、年齢の若い担当者です。
役所組織は下図のようになっているので、担当者が応対し係長や課長代理と相談しながら、意思決定権のある所属長に判断を仰ぐケースが一般的です。
不当要求・クレーム対応への心構え3選
不当要求やクレーム対応への心構えにはいろいろありますが、これまでの経験から最低限覚えておきたい3つをご紹介します。
- 面倒だからと言って特別扱いは絶対しない
- クレーマーの土俵で戦わない
- 担当課以外に総務課や人事課にもクレーマーから電話があると思っておく
面倒だからと言って特別扱いは絶対しない
特別扱いは絶対にやってはいけません。基本中の基本ですね。
時間も取られるし面倒だから、相手の言い分を聞いてあげようと特別扱いすると、以下のようになってさらにたいへんなことになります。
- 「この職員に言えば聞いてもらえる」とクレーマーが思い、今後も不当要求が続きます
- 特別扱いしてしまったら、対策を考える際に「なぜそんなことをしたのか?」と逆に役所内で責められることになります
- 特別扱いの内容が酷ければ、人事上問題になることもあるでしょう
絶対にしてはいけません!
クレーマーの土俵で戦わない
クレーマーは自分の要求を通すために、揚げ足を取ろうとしてきます。
役所側がイライラするようなことをわざと言って失言させ、事態を有利に進めようと常に考えているのです。
イライラして失言や失態があるとクレーマーの思うつぼになるので、冷静沈着に対応し相手の土俵で戦わないようにしましょう。
担当課以外に総務課や人事課にもクレーマーから電話があると思っておく
実際経験してビックリしたのですが、クレーマーは事業担当課(直接の原因となった課)以外にも、総務課(全体を仕切っている大元の課)や人事課(人事権のある課)にクレームの電話を入れることがあります。
普通の苦情なら事業担当課に文句を言うだけなので、総務課などにも電話を入れる人の場合は、相当慣れているクレーマーと考えていいでしょう。
クレーマーへの現実的な対応法6選
クレーム対応マニュアルに書かれていることもありますが、逆に「こうしたほうがうまく行くんじゃない?」と思うことがあるので、ご紹介したいと思います。
- クレーマー対応していることを周囲に知らせる
- 堂々巡りしたら、話を切る
- 非があれば、その部分に限定して謝ることはアリ
- 所属長には逐一報告
- 組織が毅然とした態度を示す(担当者はすでに毅然と対応している)
- 上の人が対応することも時には必要
クレーマー対応していることを周囲に知らせる
クレーマー対応していると、同じグループや係の人はわかってくれますが、他のグループや係の人からは
「何か知らないけど、相手を怒らせたみたいだな」
「何かやらかしたのか?」
と興味本位で見られることもあります。
相手を怒らせたことは決して恥ずかしいことではないですし、相手が勝手に怒っている場合も多いので、「私はこんなにたいへんな人を相手にしている!」と周囲に知らせておきましょう。
経過や対応状況を共有しておくと、アドバイスをくれることがあります。
「そのクレーマーはどこの部署にもクレームを入れてくるから、全然気にしないでいいよ」と言われ、気が楽になることもあります。
堂々巡りしたら、話を切る
十分に説明しても納得してくれることはまずないので、対応が延々と続く場合が多いです。
「同じ話を3回もしているので・・・」と言っても、まだ続けてくるようだと不当な要求と考えらます。
説明責任と十分な対応とのバランスが大切ですが、十分に説明したうえで、「すいませんが」「申し訳ありませんが」とクッションワードを入れて話を切りましょう。
同じ話がグルグル回り出したらチャンス!遠慮せずに打ち切りましょう!
非があれば、その部分に限定して謝ることはアリ
クレーマーと話しているなかで、一部、役所側に非がある場合は、その部分に限定して謝ることはアリです。
「○○については申し訳ありません」と限定することで、その他のことは謝っていないことになります。
限定して謝ることで、相手の気持ちが少し収まる場合もあります。
また、「言った言わない」の展開になった際、「そのような事は言っていない(または伝えた)」と主張したうえで、「もし、不愉快な思いをさせてしまっていたのなら、申し訳ありません」と仮定の話にして謝っておくのもひとつの手です。
所属長には逐一報告
クレーマーには組織として対応しないといけないので、所属長(所属の責任者)には必ず報告しておきましょう。
上司や所属長への報告は当たり前ですね。
クレーマーから議員へ話が行き、議員から所属長へ話が行く場合もあるので、たいていの所属長は問題意識をもって話を聞いてくれるはずです。
話を聞かない所属長がいれば問題外。すぐに総務課や人事課のしかるべき人に相談しましょう。
組織が毅然とした態度を示す(担当者はすでに毅然と対応している)
クレーマー対応していると、担当者は「もう勘弁してくれ」「何回も同じ話をしている」とこれ以上対応したくないと思うタイミングがやってきます。
そんなときに、個人の判断ではなく組織として「もう、打ち切ろう」と判断してくれないと担当者のメンタルがもちません。
組織が打ち切りを判断してくれると担当者は話を切りやすくなります。
しかし、経験上、「打ち切る判断をするためには法務課に確認して、その前に総務課に話して、それに室長にも了承してもらって・・・」と身内から判断を遅らせることばかり要求されます。
担当者は毅然と対応しているのに、組織が毅然と対応できないと最前線で頑張っている担当者はやられてしまいます。
対応している人を守ってくれるフットワークの軽い組織であることが大切です。
上の人が対応することも時には必要
「上の人にクレーム対応させるな」というのはマニュアルでも書かれていて、当然と思われがちですが、時には上の人の対応も必要です。
マニュアルに書かれているとおり「私が担当者なので、私が対応します」と担当者が頑張ってくれていても、最後は「上を出せ」となります。
担当者は「上の人は出せないし、でも、クレーマーからは上を出せと言われるし。どうしたらいいんだ?」と余計なところで悩んでしまいますが、上を出せば良いんです。
上の人が出て担当者と同じ説明をすれば、「上の人に言ってもダメか」と思わせられるので一定の効果はあります。
そのうえ、担当者のモチベーションが上がります。
「上の人が出てきてくれた」「自分独りじゃないんだ」と担当者が思えることが一番の効果ではないでしょうか。
所属長が出るのは最後の最後として、所属長ではない上の人は担当者をフォローする意味でも積極的に関わりましょう。
まとめ
クレーマー対応は突発的に出てくるやっかいなものです。
職場を離れても思い出してしまい精神的につらい日々が続くこともあります。
うまく言い返せたらいいけど、なかなかそうはいかないのが現状です。
担当者の方へ 「うまく上の人を使って乗り切りましょう!」
上の人へ 「担当者だけが抱え込むことのないようにフォローしながら一緒に進めましょう。」
所属長へ 「時と場合によっては出ていくことも考えましょう」
クレーマー対応は担当者任せにできる仕事ではありません。
決して担当者を独りにしないようチームで解決していかないといけません。
公務員時代の私の経験と反省を込めて書きました。参考になれば幸いです。